科学の行く末 ゲノム操作 AI

科学の行く末 ゲノム操作 AI

科学技術はわたしたちの暮らしを、昨日よりも今日、今日よりも明日へと、豊かにしてくれた。が、テクノロジーが指数関数的な勢いで進化し人々をふるい落とす。人工知能やゲノム技術へは期待よりも不安や恐ろしさがまさる。新しい時代の科学技術は大きな転換点を迎えるだろう。
日経産業新聞の先端技術面では昨年10月から週に1回のペースで2030年代に世の中に登場しそうな日本発の未来技術を紹介してきた。科学技術部にいる20代後半から30代前半の若手記者らが大学の研究室や企業の研究所に足を運び、記者の主観も交え「ネクストテック2030」として展望した。
令和テックの芽
植物がエネルギーを生み出す光合成を再現し、プラスチックを作り出す。化石燃料の節約につながる。時速1000キロ超、航空機並みの速さで列車が走る。移動の仕方が大きく変わる。どれも実現すれば、また、社会は便利になるだろう。
日本の科学技術力の衰えは著しいといわれているが、掲載した一つ一つのテクノロジーからは研究者らの奮闘する姿が伝わってきた。ただ、イノベーションという観点からみると「失われた30年」を取り戻す迫力に欠く。
自然界にある普遍的なルールを見つけ出す科学(自然科学、サイエンス)と、産業革命を機に役立つという観点から影響力を持つようになった技術(テクノロジー)とはもともと、別の道を歩んできた。
しかし、20世紀以降、科学と技術は相互作用しながら発展していく。人工知能は深層学習によって今隆盛を極めているが、これは30年ほど前に生まれた科学的概念だ。センサーや通信といった情報技術の進化であらゆるものをデータとして扱えるようになり花開いた。ゲノム編集だってそうだ。
科学の成果で新しい技術が生まれ、その技術によってまた科学が発展する。資本主義が一人勝ちした現代社会で科学技術は資本を増殖する道具と化した。
米スリーエム(3M)は3月、世界14カ国で1万4千人を対象に実施した科学への意識調査を公表した。懐疑的な見方をする人が増える傾向にあり、その割合は35%にのぼった。人工知能やゲノム技術について半数以上が、期待よりも危惧や恐怖を感じているという。
資本主義との親和性から急速に発展してきた科学技術に、お金と倫理の観点から緩やかな逆風が吹き始めている。
素粒子物理や天文学といった宇宙誕生の謎に迫るビッグサイエンス(巨大科学プロジェクト)では数千億円から兆単位の費用がかかるのはざらだ。一国ではまかなえず国際協調のスタイルが当たり前になったが、いずれ限界がやってくる。お金を巡って宙に浮いた「国際リニアコライダー計画(ILC)」はそのはじまりかもしれない。
創薬の世界に立ちはだかるのが「イールームの法則」だ。イールーム(Eroom)とはムーア(Moore)を逆から読んだもの。情報技術は「ムーアの法則」とともに格段に安く使えるようになったが、バイオ技術を駆使してできた新薬の値段はなぜかどんどん跳ね上がる。オプジーボのような画期的な薬は医療を支えてきた日本の国民皆保険制度を脅かす。
人工生命の足音
昨年11月、中国人科学者が受精卵の遺伝子を操り、双子の女の子を誕生させたと発表した。半世紀以上前、DNAの二重らせん構造の発見から始まったゲノムの世界は、生命の解析から改変(編集)へとたどりつき、いずれ間違いなく合成へと移る。人工生命体の誕生する日もそう遠くない。
人間に酷似したヒューマノイドはなぜか気持ち悪い。「不気味の谷」と呼ぶ心理現象が働くからだ。ネットを見るたびに飛び込んでくるターゲティング広告も、どこか心のなかを見透かされているようで不愉快だ。データビジネスで世界を支配する「GAFA」への反感も、こうしたそこはかとない違和感のあらわれともいえる。
科学技術が人間にとって脅威な存在にならないようにするにはどうすればよいのだろう。
宇宙物理学者で名古屋大名誉教授の池内了氏が考える科学のこれからが興味深い。「科学と技術を切り離す。その上で要素還元主義にたった科学をそろそろやめる」という主張だ。
要素還元主義は自然界にある現象をどんどん細分化してとらえれば法則があらわれてくるという考え方で、近代哲学の父とされるデカルトが提唱した。350年以上も科学の王道だった。物理学の対象は原子から素粒子、生物学は細胞から分子、遺伝子へと移っていった。
ただ、地球環境問題や自然災害、経済活動や健康といった現代人が解決をのぞむ課題になかなか答えをだしてくれない。池内氏は「これまでの科学で知るべきものはおおむねわかった。これからは要素還元主義ではどうしようもない複雑系な現象に焦点をあわせるのがよい」と述べる。
最後に新時代で必ず日本が直面する難題に触れておこう。大地震だ。もちろん今の科学技術でいつどこでを予測するのはできないが、近く必ず日本列島を襲う。それが首都直下だと世界経済への大打撃にもなる。
今から85年前、物理学者の寺田寅彦は「文明が進むほど天災による損害の程度も累進する傾向がある」と記した。自然と向き合い文明を築き上げてきた科学技術はまた、自然の驚異を前に無力さをさらすことになるのだろうか。

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