リスクにも向き合う 人生100年の生き方
11月27日。東京都千代田区で開かれたライフプランセミナーを訪れた港区の会社員は2歳になる双子の娘が心配だ。登壇した社会保険労務士からは「年金はこれから減っていく」と言われた。資産運用の話を聞きながら、改めて思いを強くした。「人生100年時代にはお金が欠かせない。今のままではまずい」
病気に介護。高齢になるほど、お金がかかるイベントは起きやすい。長生きのリスクだ。
「仕事を辞めて親の面倒を見た方がいい」。福島県で働いていた元会社員は信頼する上司の勧めもあり、2010年に介護離職をした。東京都葛飾区で暮らす父親は認知症や腎臓病を患っていた。実家に戻ると午前3時に起き、たんぱく質や塩分に気を配った食事を作る介護の日々が始まった。
父親を14年にみとるまでの間、介護施設で働いたこともある。しかし何度も自宅に電話し父親を気遣う渡辺に、介護を仕事とする同僚すら冷たかった。「職場の理解がない」。2度目の介護離職で貯金は底をついた。
「介護離職ゼロに向け制度改革を早急に進める」。10月12日の規制改革推進会議で首相の安倍晋三(64)は力を込めた。介護離職者は年10万人もいる。改革の矛先は最長3カ月の介護休業期間の延長だ。だが厚生労働省の担当者は「取得率は数%どまり。長くすれば取りやすくなるのか」と首をかしげる。渡辺もつぶやく。「介護はいつ終わるかわからないのに」
長く健康でいれば、介護の負担は減るはず。大切なのは「健康寿命」だ。埼玉県は糖尿病の重症化予防に力を入れる。「たんぱく質が多すぎると糖尿病に良くないですよ」。10月18日、さいたま市の73歳は看護師から忠告を受けた。「健康に良いと思っていた納豆や豆腐が多かった。意外だった」
ところがこうした取り組みは霞が関で論争の的になっている。財務省が10月9日の審議会の資料で「医療費の節減効果は明らかではない」とクギを刺したのだ。健康な人もいずれは病気になり、治療にお金がかかる。健康づくりをすれば医療費が減らせるわけではないという。
日本医師会の会長、横倉義武(74)はすぐに反論した。「健康寿命が延びることには経済効果もある。高齢者が生きがいを持って働き続けられることが大事だ」
人生100年時代。生きがいもリスクもある。