資金調達から資産運用まで 金融スタートアップの全貌
かつて金融サービスは都市銀行や証券会社といった大手企業がほぼ独占していた。しかし最近では「フィンテック」と呼ばれる金融スタートアップが最先端の金融理論に基づいた資産運用や人工知能(AI)を使った請求書の買い取りなどを手掛け、存在感を増している。各社のサービスを6種類に分けて「STARTUPビズマップ」を作り、全体像をまとめた。
東京都内に住む30代の女性がスマートフォンを操作すると、グラフと一緒にメッセージが画面に現れた。「目標を達成するのが難しそうです。今年の計画を確認し、計画的に資産運用していきましょう」。女性は「投資方針を見直さないといけないな」とつぶやいた。
これは顧客から資産を預かって運用するウェルスナビ(東京・渋谷)が2019年10月から提供しているサービス「ライフプラン」だ。退職年齢や年金受給開始の年齢を事前に設定し、退職時に蓄えておきたい金額を入力すると、資産運用の現状と目標がどこまで一致しているかをグラフで分かりやすく示す。
同社はノーベル経済学賞の受賞者が提唱する「ポートフォリオ理論」に基づき、利用者一人ひとりがどこまでリスクを許容するかの度合いに応じ株式や債券などを組み合わせた運用方針を自動形成する。預かり資産は2300億円を超える。
「老後資産は2000万円必要という言葉が独り歩きしたが、金額は利用者それぞれで異なる。資産運用の目標と現状を可視化して、最適な投資計画を手助けしたい」。柴山和久最高経営責任者(CEO)はこう話す。
資産運用サービスは同社以外にお金のデザイン(東京・港)や、ソフトバンクが出資するOne Tap BUY(ワンタップバイ、東京・港)などが参入している。
スマホアプリで手軽に操作できるのが共通点だ。「人生100年時代」といわれるが日本では海外に比べて貯蓄の優先度が高く、資産運用への関心が低いとされる。預金以外の金融商品に触れたことがない人も多い。リスクは利用者が負う必要があるものの、フィンテックの事業拡大は日本人の「金融リテラシー」を高める意義がある。
矢野経済研究所によればフィンテック系スタートアップの国内事業規模は17年度の段階で1503億円。19年度は3600億円に拡大し、22年度には1兆2102億円に達するとみている。
スタートアップの事業拡大は大手金融機関との取引が難しい中小企業にとっても重要だ。ファクタリングのOLTA(オルタ、東京・港)は企業などから請求書を買い取り、現金化する。アプリで請求書を確認してから回答まで原則24時間以内に済ませるのが特徴だ。
背景にあるのはAIなどを活用した審査体制。請求書の買い取りでは企業の信用度や支払期限など様々な要素を考慮する必要があり、決定まで時間がかかった。迅速審査で中小企業の資金繰りを手助けする。沢岻優紀CEOは「大手の金融機関と取引できていなかった事業者へ積極的に資金を提供したい」と語る。
ネットユーザーから事業資金を調達するクラウドファンディング(CF)では、大手企業よりもスタートアップの方が存在感を示す。マクアケを筆頭にCAMPFIRE(キャンプファイヤー、東京・渋谷)やREADYFOR(レディーフォー、東京・千代田)などの企業が様々なプロジェクトを進めている。
マネーフォワードやフリーなどの企業は東証マザーズへの上場を果たした。これらは「資産管理」に分類される。ここで特色あるサービスを展開するのがOsidOri(オシドリ、東京・渋谷)だ。同社は夫婦で資産管理ができる家計簿アプリ「オシドリ」を提供している。主なターゲットは共働きの夫婦。家計口座や子供の教育貯金といった共通口座と、夫婦それぞれの個人口座を同じアプリで管理できる。
個人口座は自分しか見られないようにしたのが特徴だ。アプリを使う20代の男性は「家族全体の支出が見えにくかったが、簡単に把握できるようになった」と話す。
個人に最も身近なフィンテックは決済だろう。MMD研究所(東京・港)が19年12月から20月1月にかけて実施した調査では、QRコード決済の認知度は9割を超えた。楽天Edyなどの非接触決済も8割を超え、一般への浸透が進んでいる。
この分野でもスタートアップの台頭は際立つ。Kyash(キャッシュ、東京・港)はクレジットカードや銀行口座をひもづけたプリペイド式のスマホ決済アプリを手掛ける。鷹取真一社長は「ユーザーのお金に関する不満を解消したい」と力を込める。クレジットカードユーザーの半数以上は「つい使いすぎる」と感じているという。キャッシュのサービスはプリペイドで使いすぎを防ぐ。決済金額や場所がスマホで通知される使い勝手の良さも受けている。
今春にもセキュリティーを高めた新カードを発行する計画だ。ICチップを搭載し、プリペイドでは珍しく受け取りに本人確認が必要。「今後は決済に続くフィンテックサービスにも進出したい」(鷹取社長)という。
幅広い企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるなか、決済基盤を提供しデータ連携にも使えるプラットフォーム系フィンテックの重要性も高まっている。インフキュリオン・グループ(東京・千代田)は傘下企業を通じ、スマホ決済用レジ端末や決済基盤を提供する。りそなグループに採用されており、他の金融機関にも導入を呼びかけていく。
決済サービスなどと比べれば、生命保険などの保険事業は強固な財政基盤がなければ手掛けにくい。そのため大手企業の独壇場だった保険分野にもスタートアップが参入してきた。ジャストインケース(東京・千代田)は保険金の支払いを契約者が割り勘で賄う「ピア・ツー・ピア(P2P)」のがん保険を発売した。同社によれば国内では初めての取り組みだという。一般的ながん保険とは異なり、加入者は月払いの保険料を払う必要はないことが「P2P保険」の特徴だ。
加入者ががんと診断されると、一律80万円を受け取る。支払われる保険金の原資は契約者全員が「割り勘」で後払いする仕組みだ。
中国などではP2P保険が急速に普及しているとされる。日本でも普及させるには、独特の仕組みを消費者へ丁寧に説明する必要がある。
当初の1年間は政府の規制緩和の枠組み「サンドボックス制度」を利用して進めている。畑加寿也社長は「保険金を支払うことがマイナスではなく、払う人も幸福感を感じられるような仕組みを作りたい」と話している。
金融スタートアップはスマホを窓口に大手金融機関が手掛けにくいサービスを提供し、利用者を集めている。一方で事業を始めたからには長く続ける責任も負う。スマホ決済のOrigami(オリガミ、東京・港)がメルペイ(同)の傘下に入り、将来的にサービスを終えることは各社にとって苦い教訓となった。
スタートアップが事業の行き詰まりで大手企業に助けを求めるのではなく、足りない部分を補い合う形で前向きな連携を提案することは重要だ。これからはスタートアップと大手が最適な「競争と協力の構図」を見つけることが求められる。
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