米イラン応酬で警戒感再び 反転に備えも
地政学リスクが再び株式市場を覆った。ミサイル攻撃で米イランが本格的な軍事衝突に近づいたとみた投資家は、8日の東京株式市場で一斉に持ち高調整に動き「落ちてくるナイフはつかむな」を予感させる展開となった。ただその後は下げ幅を縮め、投資家は悲観一色でもない。振れ幅の大きい相場のなかで強弱感が交錯している。
8日の午前8時すぎ。証券各社のトレーディングフロアでどよめきが起こるとともに「一瞬、パニックに陥った」(SMBC日興証券の山田誠エクイティ部長)。イランによる米軍基地へのミサイル攻撃の一報が伝わった瞬間だ。
ほどなく外国為替相場は円高・ドル安に振れ、株価指数先物には売り注文が殺到した。マクロ景気の先行きに応じて機動的に投資対象を組み替えるグローバルマクロ系のヘッジファンドが「株式の売りと、金や原油の買いを組み合わせて活発に動いた」と外資系証券トレーダーは話す。
シンガポール取引所(SGX)の日経平均先物の3月限は一時2万3000円を割り込んだ。先物の急落は東京証券取引所の現物株取引にも波及し、9時41分には日経平均株価が前日終値比2.6%安の2万2951円まで下げ、取引時間中としては約1カ月半ぶりの安値水準を付けた。「損失覚悟の投げ売りを迫られた投資家もいた」(SMBC日興証券)
日経平均オプション取引でも不安心理が色濃くにじむ。足元の相場から700円あまりも低い、2万2500円を権利行使価格とする期近物のプット(売る権利)の売買高は前日から4割以上増えた。9日が最終売買日だが、一段の急落リスクに備える動きが広がった格好だ。
オプション価格から算出する日経平均株価の予想変動率「日経平均ボラティリティー・インデックス」は一時19台と前日比で3割近く急伸した。
緊迫の一途をたどっていた流れを変えたのは午前の取引終了後のツイッター上でのやり取りだった。イランのザリフ外相は今回の攻撃は自衛権の行使だと主張しつつ「さらなる緊張や戦争は望んでいない」とも述べた。トランプ米大統領も現時点では人的被害などは確認されていない、としたことから威嚇の応酬が一服するのではないか、との期待が市場で浮上した。
その後は先物主導で相場は下げ幅を縮め、日経平均株価は370円安の2万3204円で引けた。朝方は下げていたソニーやSUMCOが上げに転じるなど、半導体関連の銘柄を買い戻す動きも目立った。個人投資家が好む、レバレッジ型上場投資信託(ETF)の代表銘柄の売買代金は旺盛な押し目買いもあって前日比2.6倍に急増した。
ドタバタと振れの大きい相場展開をよそに、中長期の時間軸で投資判断する機関投資家は買いに動くタイミングを静かに吟味している。コモンズ投信の旗艦ファンドはリスク抑制のために一部の銘柄を換金してキャッシュ比率を1割程度に高めつつ「不安心理が収束して相場が反転する前に、いち早く機動的に動けるようにする」。伊井哲朗社長はこう語る。
しんきんアセットマネジメント投信の藤原直樹運用本部長は「泥沼の戦争になるのでなければ、市場の関心はいずれまた景気動向や企業業績に戻る」と指摘。この日は模様眺めに徹したが、なお株高シナリオが有力とみて荒れ相場が静まるのを待ち構えている。
思い返せば19年は年初の「アップル・ショック」を受けて急落した大発会が年間を通じた安値だった。大勢に流されず自身の相場観に従ってどれだけ動けるか。年始早々に訪れた波乱を好機に転じようと、狙いを定める投資家も少なくないようだ。
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